日本株最大の投資家
日本銀行が初めて指数連動型上場投資信託受益権(ETF)を買い入れたのは、2010年12月15日。白川総裁時代のことである。それから、約10年経った2020年度末。日銀は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を抜き、日本株最大の投資家となったことが明らかになった。
本シリーズ「日銀ETF入門」1では、近年、日本の株式市場において大きな存在感を示してきた「クジラ」、日銀が保有するETFについてさまざまな観点から検証していきたい。非伝統的金融政策のなかに位置づけられるETFの買い入れ政策は、制度設計が複雑で難しい。しかし、幸いにも、学術論文やシンクタンクのリポートなどでこれまでに明らかになっていることも多い。一つずつ紐解いていこう。
第1回目となる今回はまず、日銀がどの銘柄を買い入れているのか確認しよう。
日銀はどの銘柄を買い入れているのか
買い入れ対象指数はTOPIX、日経225、JPX日経400
日銀は、ETF買い入れのための基本要領である「指数連動型上場投資信託受益権等買入等基本要領」3.買入対象にて、どの指数に連動するETFを買い入れるかを示してきた。しかし、ETF銘柄そのものが明示されてきたわけではない。あくまで、買い入れ対象となる指数が示されてきた。対象指数の変遷は、2010年12月15日に東証株価指数(TOPIX)、日経平均株価(日経225)を対象に買い入れ開始、2016年10月3日にJPX日経インデックス400(JPX日経400)が買い入れ対象に追加、2021年4月1日以降はTOPIXに買い入れ対象が一本化されるという流れである。
ベーシックな指数連動型ETFのみが買い入れ対象
対象指数がTOPIX、日経225、JPX日経400であることは分かった。しかし、指数に関連するETFはさまざまなものがある。そのすべてが買い入れ対象なのだろうか。例えば、レバレッジ型やインバース型のETFは対象なのだろうか。ほかの銘柄と商品性が異なる(現物設定型ETFではなく、金銭信託型ETFである)上場インデックスファンド日経225(ミニ)(1578)はどうなのだろうか。
この疑問には、原田(2019)や左三川・中野(2020)が答えてくれる。商品性などから、レバレッジ型やインバース型、金銭信託型ETFである1578は対象外のようだ。
原田(2019)
証券コード一五七八(上場インデックスファンド日経二二五)も日経平均株価に連動するETFであるが、特徴が他のETFと異なることから除外している。
左三川・中野(2020)
日経225連動型ETFのうち、1578(日経225ミニ)は課税上の取り扱いや配当控除の適用、益金不算入制度の適用などの点で他の日経225連動銘柄と商品性が異なるため、日銀の購入対象ではないと判断し、除外した。
現在の買い入れ対象は、1475のみ
さて、2021年4月1日に買い入れ対象指数がTOPIX一本に絞られたことは、先に述べた。実は、2023年末までの間に、対象指数は変わっていないものの、重要な変更が買い入れ方針に加えられている。2022年12月1日から「原則として信託報酬率が最も低い銘柄を買入れる」とされたのだ。
それまでは、「銘柄ごとの時価総額や市中流通残高2に概ね比例するように買い入れる」とされてきたが、この改正を受け、信託報酬率が最も低い銘柄という1銘柄に買い入れ対象が急に絞られることになった。対象銘柄は、外資・ブラックロック社のiシェアーズ・コア TOPIX ETF(1475)である。
買い入れ対象銘柄一覧
制度の流れや論文等を確認し、現在の買い入れ対象は、1475のみであると判明した。最後に、これまで日銀が買い入れてきたETF銘柄を連動する指数別に一覧表記しておこう。それぞれ、TOPIXが9銘柄、日経225が9銘柄、JPX日経400が7銘柄の計25銘柄である。
次回は、日銀ETF買い入れ制度の推移を確認していくこととしたい。
買い入れ対象:TOPIX連動型ETF
Index | 証券コード | 銘柄名 |
---|---|---|
1 | 1305 | iFreeETF TOPIX(年1回決算型) |
2 | 1306 | NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信 |
3 | 1308 | 上場インデックスファンドTOPIX |
4 | 1348 | MAXIS トピックス上場投信 |
5 | 1473 | One ETF トピックス |
6 | 1475 | iシェアーズ・コア TOPIX ETF |
7 | 2524 | NZAM 上場投信 TOPIX |
8 | 2557 | SMDAM トピックス上場投信 |
9 | 2625 | iFreeETF TOPIX(年4回決算型) |
買い入れ対象:日経225連動型ETF
Index | 証券コード | 銘柄名 |
---|---|---|
1 | 1320 | iFreeETF 日経225(年1回決算型) |
2 | 1321 | NEXT FUNDS 日経225連動型上場投信 |
3 | 1330 | 上場インデックスファンド225 |
4 | 1346 | MAXIS 日経225上場投信 |
5 | 1369 | One ETF 日経225 |
6 | 1397 | SMDAM 日経225上場投信 |
7 | 2525 | NZAM 上場投信 日経225 |
8 | 2624 | iFreeETF 日経225(年4回決算型) |
9 | 1329 | iシェアーズ・コア 日経225 ETF |
買い入れ対象:JPX日経400連動型ETF
Index | 証券コード | 銘柄名 |
---|---|---|
1 | 1591 | NEXT FUNDS JPX日経インデックス400連動型上場投信 |
2 | 1592 | 上場インデックスファンドJPX日経インデックス400 |
3 | 1593 | MAXIS JPX日経インデックス400上場投信 |
4 | 1599 | iFreeETF JPX日経400 |
5 | 1474 | One ETF JPX日経400 |
6 | 2526 | NZAM 上場投信 JPX日経400 |
7 | 1364 | iシェアーズ JPX日経400 ETF |
参考文献
原田喜美枝(2019)「ETF買入政策と運用業界への影響」証券レビュー、第59巻第9号
左三川郁子・中野雅貴(2020)「日経平均が2万600円を下回ると日銀のETFに含み損―通貨発行益の源泉は国債利息から分配金収入にシフト」2020年度金融研究リポート